108 / 365

1年間に読んだ本/見た映画・演劇の合計が108になるといいなあ、という日記。

『21世紀の資本』

21世紀の資本

 

当邦においても大きく話題となった経済書21世紀の資本』の映画化。脚本監修のみならず、主要な出演者の一人としても、著者のトマ・ピケティが深く携わった本作は、学術書のドキュメンタリー映像作品として、書籍以上に人口に膾炙するところとなった。

 

著者ピケティの論旨は明快である。

1)実体経済の成長率が、資本収益(土地や金融資産などから得られる利益)の成長率を超えたことは歴史上一度もない

2)従って、資本収益に対する課税を強化しなければ経済格差は拡大し続け、階級闘争や革命の火種を生み出し続ける

 

ということである。

本書の特徴は、この明快な論旨(あらゆる意味で、誰しもが抱いている実感ではないだろうか?)を裏付けるため、産業革命以降のあらゆる統計資料、歴史書、文学作品を引用し、実証している点である。

 

映画版においては、ヴァージニア・ウルフ原作『高慢と偏見』や『レ・ミゼラブル』など、最近の話題作含む古今の映画作品を引用し、論証過程を見せている点が非常にユニークかつ、映画としての楽しさを生み出している。

 

本作の主張が、もし正しいとしてーいくつか疑問は残る。

1)資本収益に対する課税強化は政治的な決定によってなされなければならないが、これにはタックスヘイブン含む国際間協調を大前提とする。それは現実的に可能だろうか。

2)課税に格差を是正する効果はあるのだろうか。

の2点である。

 

現に資本を持っている人間が本作を読んだり観たりしたとして、まず考えるのは、資本収益に対する更なる投資であり、租税回避地への資産の移転であり、政治家に対する課税回避のロビイングであろう。それらの力は、おそらく、常に再分配・公共福祉を訴える力よりも強い。戦争や大恐慌でさえも、本質的には、この傾向を是正できなかった、とはこの作品でとみに強調される部分である。

 

本作で示される単純明快かつ強力な理論ー”r>g”は、革命の揺籃となることによって、資本主義の仕組み自体を蝕み、破壊してしまう。一方で、資本主義に代わるような次善の経済理論はいまだ生まれてきていない。なんとかしてこの枠組みを維持する努力をしなければ、大きな破滅がもたらされかねない、というのは誰の目にも明らかではあるが、しかし、一方で、それに対する打開策を打とうとは、ほとんどの人は思っていない。あるいは、それ以上に、今の「勝ち馬」になんとか乗ろうとすることに必死である。

自分は、むしろ、国際的な課税の強化という「策」を下支えするための、教育や倫理の裾野を広げる必要性を感じている。政治の目的は利害調整ではなく、それによって社会的に具現化される「善のイデア」なのだと信じたい。

なお、三菱UFJ銀行シンクタンクでの講演記事
 https://www.murc.jp/assets/img/pdf/quarterly_201602/pdf_001.pdf

はとても面白かったです。格差拡大の要因として、資本収益の成長率に注目するのではなく、超巨額の報酬を得ている「メガマネージャー」に注目している点。
しかし、メガマネージャーは、主に金融業の経営者に顕著ではないのか?とも思われ、やはり資本収益への規制についての課題は残ると思った。